暮らしながら変わっていく、現在進行形の家。

2018.06.07

 

その佇まいをひと目見るだけで、リラックスした気持ちになるのはなぜだろう。平屋建てにしては高めの片流れの屋根、通りを臨む大きな窓。戸を開けると土間がまっすぐ続き、カーペットの床がせり出している。高さは靴を履いたまま腰掛けるのにもちょうどいい。エントランスとリビングを隔てるのは、塗装を落としたアンティークの扉とガラスをはめた壁。古い木材、漆喰、ガラス、ウール。異なる素材が優しく調和している。ここは又木夫妻が、自分たちのために建てた新しい家。シンプルさと遊び心。ずっと暮らし続けることを考えると、そのふたつはどうやら欠かすことができないようです。

 

 

−こんにちは。まずは家の間取りを教えてください。

夫:「寝室がひとつとLDK、それから物置ですね。間取りの希望は伝えましたが、実際には妻が設計してくれたので、具体的にはお任せで(笑)」
妻:「主に商業施設ですが、大阪のほうで空間を作ったり、設計をしたりする仕事をしていたんです。この家はふたりでコンセプトもちゃんと話して、明確になっていたから、2カ月くらいで設計はできました」

 


 

−コンセプトがあるんですね。

妻:「はい。ずばり、老後です(笑)。もともとここの土地は夫の実家が建っていて」
夫:「そう。2階建てのね。数年前に亡くなってしまったんですが、年老いた両親の介護がけっこう大変で。居間が2階にあったので、階段の上り下りは特に。それで僕らがこのまま歳をとっていっても、楽に暮らしていけるような家にしたくて」
妻:「平屋なのも、家の中に段差がないのも、玄関が土間になっているのも、ぜんぶそのためです。ふたりで年をとっていくことを考えました」

 


 

−床を敷き込みのカーペットにしているのも、そのコンセプトに合わせてですか?

妻:「大阪で仕事をしていた頃から、敷き込みのウールカーペットには魅力を感じていて。柔らかくて立っていて楽だし、肌触りも気持ちいい。この家は自分たちの最後の家になる、たぶん、人生で一番長く暮らすはず。だったら、その快適さが玄関から居間、キッチン、廊下、寝室と段差なくシームレスにつながっているのがいいなって」
夫:「そうですね。最初、『床はカーペットに』と聞いた時は、少し戸惑いましたけど。掃除が大変になりそうだなぁとか(笑)。実際に住んでみるまでは、不安のほうがおおきかったかもしれません」

 

 

−では実際に、カーペットに暮らしてみた感想はいかがでしょう。

夫:「すごくよかったです。今では、なんであんな不安に思ったんだろうっていうくらい(笑)、気に入っています。木のフローリングに暮らしていた時は、埃のせいでよくクシャミが止まらなくなったりしたんですが、この家で暮らしてからはそういうことも全くなくなったし。やっぱり、この肌触りがいいですよね。ソファもありますが、つい下に座りたくなってしまう」

 

 

妻:「私は朝起きて、ベッドから足を下ろした瞬間がすごく好きです。優しくて気持ちがよくて。なんていうか、ホッコリしますよ(笑)。寝室と居間でカーペットの種類を変えているんですが、寝室のストライプのは夫の趣味で、居間の白いのが私の趣味。見た目も質感も違いますが、気持ちいいのは一緒ですね」

 

 

−老後というコンセプトが感じられないような、開放感とか楽しさがありますね。

妻:「そうかもしれません。南に向いた窓は高さが2400mmありますし。日中は照明をほとんど使わないくらい明るいんですよね。ホワイト系のカーペットがさらにそう感じさせてくれる。あとは、この家の設計やインテリアの出発点になっているのが、リビングにあるペンダントライトとドアなんですよね。どちらもベルギーのアンティークで、とてもいい木が使われていて。基本はシンプルだけど、こういうものがすっと馴染むような場所にしたかったんです。キッチンのシンクや冷蔵庫でミラー素材を使ったのも、想像以上に効果的でした」

 

 

夫:「絵を飾ったりもしてるしね。実はこれ、亡くなった母が描いていたものなんですが」
妻:「遺品を整理していたら、どんどん出てきたんです。油彩だけじゃなくて日本画も。ハイカラですよね。季節や気分によって、変えたりしていこうかと思っていて。使わせてもらっている遺品の食器やカゴもそうですが、古いものや受け継いだものがすんなりはまっていくような空間になるといいなとは思っていましたね。新しく建て替えたとしても」

 



 

−もし、不満や変えたいことがあるとしたら教えてください。

夫:「それが、ぜんぜんなくて。あるとしたら、トイレと脱衣所も床をカーペットにしておけばよかったなと思ったくらいです(笑)。濡れるのを気にして、塩ビのシートにしたんですが、やっぱりすごく冷たくて。朝なんかは特に」
妻:「キッチンも廊下も、ほかはすべてカーペットになりましたからね。比べてしまうとどうしても、固さや冷たさを感じてしまう。もう夫は『自分で張れるようになろうかな』なんていうくらい、好きになったみたいで(笑)。ホームセンターで器具を物色したりしてますね」

 

 

夫:「建て替え工事で余ったカーペットをとっておいているんです。それをいつか有効活用できたらいいなと思っていて。玄関が高いのでステップを作って、その上に貼ったりとか。職人さんがいるくらいなので、簡単ではないと思いますけどね。あとはもう少し、家でのんびりできたらいいのにって思ったりもするかな。夫婦揃ってスポーツが好きで、週末も外出することが多くて。自業自得なんですが、まだカーペットの暮らしを堪能しきれてない気がするんです(笑)」

 

 

−自分たちで手を加えていくと、さらに愛着がでてきますね。

妻:「いきなり頑張り過ぎないっていうのは、大事ですよね。家は暮らしながら作っていくものだと思うんです。建てるとなると気合が入ってしまうのか、いっぺんに買い揃えたりしがちですが。本当に必要なものを、少しづつ足していけたらいいですよね。ダイニングの椅子は形は違いますが、若い頃からちょっとずつ集めてきたもので。揃ってもないけど、バラバラにも感じなかったりしますし」

 

 

夫:「そうですね。パソコンを載せている作業台とか、外壁のブロックも、この家ができてからペンキで塗りました。ムラはありますけど(笑)。あとは収納をあえて減らしたのもよかった。物を置かなくなっていったし、そのぶん暮らしまでシンプルになっていった気がします」

 

 

−ほかにも、この家で暮らしていくことで、気づきはありましたか?

夫:「やっぱり、シンプルに心地よく暮らすのは、大事だなって思いましたね。仕事でも僕ら夫婦の趣味でも、暮らしに不満がなくなって落ち着いていくと、より集中できるようになるというか」
妻:「あとは土間がけっこう便利なことも。靴も下にたくさん収納できるし、履くのも楽になったし。機能とデザインがうまく形になったんじゃないかなって思っています。今年の春に完成して、暮らし始めたばかりなので。季節が一巡したら、もっといろんなことがわかってきそうですよね」

 


 

−完成した喜びよりも、これから先の楽しみのほうが大きいんですね。

妻:「たとえば夏のウールカーペットがどれだけ気持ちいいかとか。聞いたところでは、ずっとサラサラでいられるらしいので。すごく楽しみにしていて。いきなりすべてを完成させるつもりはなかったから、余計にそう思えているのかもしれません。ペットも飼えたらと思っていて。ここでも犬派と猫派で夫婦の意見がわかれているんです。寝室と居間のカーペットの種類と同じで(笑)」
夫:「実は僕、バイクも欲しいんですよね。土間が駐めておくのにちょうどいいサイズ感なので。まだ正式なオーケーは出ていないんですが(笑)。そこは話し合いで。」

 

 

 

(プロフィール)

name: 又木夫妻
house info: 平屋建(1LDK)
location: 埼玉県越谷市
family: 夫婦2人
occupation: IT系企業勤務(夫)、空間デザイナー(妻)


Photo : Keisuke Ono
Text : Satoshi Taguchi

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