CARPETROOM PROJECT

家族が集まる場所がある

2022.02.18

「休みの日は、もっぱら子どもたちのスポーツの応援や引率ですね。平日は習いごとがあったりするので、家族が揃うのはいつもだいたい夜。でも何をするわけでもなく、みんなこの辺でゴロゴロしています」と、リビングのカーペットを指して話す、建築家の山﨑康弘さん。2021年の春に完成した、自身の設計による新居にて、ご夫婦と元気いっぱいの2人の息子さんとの、あたらしい暮らしぶりをうかがいました。

山﨑家は、兵庫県神戸市の線路沿いの住宅街にある一戸建て。家を目の前にすると窓がひとつも見当たらず、大きなコンクリートのかたまりのようなインパクトのある佇まい。玄関から入って扉を1枚開けるとそこには、外観からは想像できない開放的な空間が現れます。

1階のリビングダイニングから2階のスタディコーナー、さらには屋上へと続く階段までが約5メートルの吹き抜けによって見渡すことができます。漆喰やナラ材、RC打ち放しなど、康弘さんこだわりのさまざまな素材選びによって構成された、表情豊かなグレートーンの壁と天井が気持ち良く広がります。

そして床にはウールカーペットを選んだ康弘さん。“自分の家を建てるときは絶対カーペットにする”と決めたときのことを振り返ります。

「この家を建てるとき、素材選びにはこだわりました。カーペットを採用したきっかけは、堀田カーペットの堀田社長のご自宅のオープンハウスにうかがったことなんです。それまでは自分の手がける建築でもほとんど採用したことがなく、正直『カーペットなんて……』と思っていたんです(苦笑)。でも、家中カーペットを敷き詰めた堀田さん宅にうかがったとき、玄関で座りこんで話してしまったんです。座りたくなるほど心地よかったんですよね。だから自宅も絶対カーペットにしよう決めていたんです」

それでも当初は、お手入れのことなど心配な点も多かったそう。

「小さい子どもがいる家だと食べ物をこぼしたりなど、どうしても汚れの心配はありますよね。でも思っていたよりカーペットの手入れって楽なんです。フローリングに比べて髪の毛や埃など細かいゴミは圧倒的に目立たないし、基本は掃除機をかけて、ポイントで汚れたらカーペットクリーナーを使っています」と言う康弘さんに、「主人が率先して掃除をしてくれています」と妻のあゆみさんも満足そうです。

山﨑家はバスルームとパントリー、子どもたちのスタディコーナー側の階段以外は、すべてカーペットを採用。リビングはダイニングから40cmほど下がっており、このちょっとした段差にも腰掛けることも多くまさにカーペットのための設計。そして海苔巻き状にカーペットを巻きつけた階段は見た目も軽やかでどの角度からみても美しく、踏み心地も快適です。

「カーペットの魅力は、やはりどこでも座れることですよね。みんなが床に丸く座ったり、対面で座ったり、カーペットというだけで勝手に居場所ができるというか。家具屋さんには申し訳ないですが……床はカーペットにすると決めたので、最初から新居にはソファを置くつもりはありませんでした。前の家はフローリングで、ソファの下にラグを敷いていましたが、そうすると居場所がそのあたりしかないんですよね。だから今は、使える床が増えてちょっと得した気分です(笑)」

中学1年生と小学3年生の息子を持つ山﨑夫妻。長男はサッカー、次男は野球とスポーツ三昧の活発な子どもたちも、カーペットライフを楽しんでいる様子。

「お友達が遊びに来たら、『オレは何段目』ってみんな階段に座ったりもしています。床のちょっとした段差に座ったりもして、みんな思い思いの場所で過ごして遊んでいますね。ストレッチしたり寝転がったりできるのもいいですよね」とあゆみさん。

「今まではスポーツから帰ってきた後、ポケットの砂が床に落ちていても気にしていなかったのに、カーペットに座るようになってから、自分の居場所がザラザラするのが気持ち悪いから、自ら掃除をするようにもなりました(笑)」

夏は涼しく、冬は暖かく。とにかく快適な住環境を目指したと言う康弘さん。

「ウールカーペットは暖かく、夏は裸足でも快適ですよね。僕自身、家の中で暑い、寒いというのがとても苦手でして。夏は直射日光が差し込みすぎず、冬場は午前中に光が入るような窓の位置にもこだわりました。線路に接する北側には開口部を設けず、RCの壁で防音性を高めて、光は主に2階から取り入れています」

ふと見上げると空抜けに2階の中庭に面した窓から美しい植栽がのぞきます。

「家の中から、1年中楽しめる植栽なんです」

今年の4月でこの家で暮らしはじめてから1年が経ちます。家族一人ひとりが今までからの変化を楽しみながら、あたらしい生活とその快適さを実感しているようでした。山﨑家のリビングのように、家族が自然と集まる場所があること自体が、何よりのコミュニケーションなのかもしれません。

「普段は建築のことばかりなので、そのうち趣味も持ちたいな」と康弘さん。子どもたちの成長とともに、この家での過ごし方はこれからも心地よく自由に変化していきそうです。

(プロフィール)
name: 山﨑家
house info: 一軒家
location: 兵庫県神戸市
family: 夫、妻、長男、次男
occupation: 建築家(夫)、会社員(妻)

photo : Keisuke Ono

text : Mana Soda[Polar Inc.]

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