CARPETROOM PROJECT

自然と、自然に、暮らすこと

2021.01.05

「フランク・ロイド・ライトが好きで、ここから彼の建築『旧山邑邸(ヨドコウ迎賓館)』が眺められるから、この場所に家を建てたんです」と語る、家主で建築家の津田茂さん。近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトの日本に4つしかないという建築物のひとつを、自宅から望む。建築やインテリアはもちろん、そこでの暮らし方へも、建築家の自邸ならではのこだわりが随所に光っていました。現在の家に住み始めて約1年半。ご夫婦の愉しい会話と娘さんの笑い声が、この家をいっそう活きいきとさせています。

「スリランカにあるホテル『ヘリタンス カンダラマ』のように、自然と一体化している建物が大好きなんです。この敷地を見つけた時、自分の家も緑に溶け込むような建築にしたいなと。外を囲まれているだけでなく家の中からも緑を見たいから、北側だけを壁にして、三方を窓にして緑が見られるような設計にしました」

そんな茂さんのこだわりが実現。2階のリビング・ダイニングフロアに上がった瞬間、窓の外とは思えないほど、ダイナミックな緑と明るい光が目の前に広がります。

ハンス J. ウェグナーのYチェア、ハンス・アウネ・ヤコブソンのペンダントランプ、フレックスフォルムのソファ、アンティークのアラビア食器……など、名作揃いの津田家のインテリア。貴重な限定品もサラッと部屋に馴染んでいて、さすが建築家と言わんばかりのコレクション。そのほとんどが引越し前から愛用していたもので、新居のために揃えた家具はダイニングセットくらいなのだとか。イタリアや北欧など様々なテイストがミックスしているにも関わらず、どれもこの家に馴染んでいるのは、インテリアには頼らない、茂さんの建築家としての考えがありました。

「建築家として空間の見せ方はとても大事なことですが、インテリアで仕上げる、ということが好きではなくて。構造体の持つ力が空間を左右すると思っています。自宅では極力最小限の仕上げ素材を目指したので、天井も壁も構造体をそのまま活かしている部分が多いです。その中で唯一のインテリア仕上げが床材かなと思っています」

幼少期をアメリカ・サンフランシスコで暮らした茂さん。その当時からカーペットの生活に慣れ親しんでおり、床材は必ずカーペットにしようと決めていたのだそう。

「その反動というか、独身時代全て石貼のマンションに住んだこともあったんですが、それは冷たかった……(笑)だから家を建てる時は、絶対にカーペットにすると決めて、それをベースに建材を選んでいきました」

津田家は二階建ての一軒家。玄関から入って、緑と光が溢れる2階へ向かうまでのアプローチからすでに、目にも体にも心地よさが伝わってきます。そこにも茂さんのこだわりが。

「1Fの廊下、寝室、子ども部屋、階段そして2階のリビングまでカーペットを敷いているのですが、極力継ぎ目を作らず、 カーペットをすべて同じ方向に敷き詰めて、部屋が変わってもひと続きのシームレスな空間になるようこだわりまし た。一体的に仕上げることで、カーペットの床面も建築空間の一部になると考えたからなんです」 贅沢にもほとんど継ぎ目を作らない敷き詰め方を実現したことで、まるで1枚のカーペットに包まれているような気分になります。

津田家は茂さんと妻の直美さん、そして11ヶ月になる娘の茉禾(まのか)ちゃんの3人暮らし。同年代のお子さんを持つ友人家族もよく集まるのだそう。

「お友達が子どもを連れて来ると、みんなカーペットの上にいるんです(笑)。フローリングで子どもが遊んでいると、転んだ時など心配ですが、カーペットだとその心配も少ないみたいで。我が家だとずっとここで遊んでいますね。 来客用のスリッパもあまり使わなくなっちゃいました」と直美さん。

 

「実はね……」と茂さん。「日本人って、ソファがあるのに床に座ってソファを背もたれにする人多いでしょう。その姿があまり好きじゃなかっ たんですけど、今、すっかり居心地がよくて僕が自らやっています……(笑)床で食事をすることは禁止しています。お茶だけです」

建築家だからこそ実現できたであろう、家へのこだわりがたくさん詰まった津田家。大好きなデザインや愛着のあるものに囲まれながらも、その暮らしの本質は「美しい自然の存在」や「肌触りの気持ちよさ」など、子どもから大人まで 誰もが自然と居心地良いと思える、とてもシンプルなことのように感じます。

(プロフィール)
name: 津田家
house info: 一軒家
location: 兵庫県芦屋市
family: 夫、妻、長女
occupation: 建築家(夫)、主婦(妻)

photo : Keisuke Ono

text : Mana Soda[Polar Inc.]

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