CARPETROOM PROJECT

ずっと裸足で暮らせる家

2024.10.22

玄関を開けると迎えてくれたのは、画廊のような凜とした空間。けれど緊張感はなく、むしろどこかやわらかい。

その独特の空気をつくっているのが、玄関をあがってすぐのところから足元に広がるカーペットだ。靴を脱ぎ、上がり框(かまち)をまたぐと、見た目以上に心地よい弾力が返ってきた。

マンションの一室をフルリノベーションした、N邸。「本をゆっくり読める家」をコンセプトに、設計の前に椅子から検討していったという。

「ずっと探し求めていた『読書に最適な椅子』を見つけ、そのデザインに調和するよう壁や建具、そしてカーペットの色味を決めていきました。通常の家づくりと、きっと順番が逆ですよね」

そうして選ばれたのは、一見シンプルなアースカラーのカーペットだ。ただ、よく見ると茶色やベージュの糸が織り込まれていて、単調さは感じさせない。白い建具にも木目の家具にもすっと馴染むだけでなく、リビングの窓から降り注ぐ光を受け止め、やさしく表情を変える。

「椅子ありきだったけれど、この色、とても気に入っているんです。いろいろな糸が混ざっているから、飽きも来ない。ふと目に入ったとき、美しいな……としみじみ思います」 

カーペットは「生活」

以前は、フローリングにラグを敷いて暮らしていたというNさん。敷き込みのカーペットについて、「ラグや絨毯とはまったく違うものだった」と語る。

「色や柄、足ざわりでアクセントをつけるために敷くラグは、インテリア。一方カーペットは『生活』なんです」

季節やライフスタイルに応じて出し入れするものではなく、ずっとそこにあるもの。暮らし方を決めるもの。生活の基盤になるもの。

そんな存在だから、装飾品ではなく「生活」なのだ。カーペットがもたらす「生活」の魅力について問うと、Nさんは「ずっと裸足でいられるところ」と即答した。

「足ざわりも気持ちよくて、ずっと裸足で過ごせるのが最高ですね。個人的にスリッパがあまり好きではない、というのもあるんですが(笑)。脱衣所とトイレ以外、全面カーペットです」

Nさんが、100平米を超える自邸を全面カーペット敷きにしたのには理由がある。

「フローリングが混在すると、どうしても『かたい場所』やひやっとする場所がうまれてしまうでしょう。でも、こうしてぜんぶ敷き込んだことで家中を裸足で歩ける。カーペットと暮らすよさが、より際立ったと思います」

もうひとつ、ところかまわずゴロゴロできるところが最高だとNさんは顔をほころばせる。ただ寝そべるだけでなく、毎日のようにストレッチをしているそう。

「家全体がヨガマットのようなもので、どこでも全身思いきり伸ばせます。フローリングのときは、そのまま寝転ぶと身体が痛いし、マットを敷いても埃の舞い上がりが気になっていました。カーペットは、その両方の問題を解決してくれましたね」

四季を、より心地よく感じられる

Nさんが住まわれているのは、山に囲まれた盆地だ。夏は蒸し暑く冬は冷え込む土地で、しかもN邸はマンションの最上階。四季を感じやすい、言い換えれば温度変化を受けやすい環境だが、だからこそカーペットにしてよかったという。

「以前はカーペットに温度感がある印象があって、フローリングに比べて夏場は暑苦しくなるんじゃないかと想像していたんです。でも、それはまったくの取り越し苦労でした。足裏がべたつかないし、こころなしか部屋の空気もすっきりとして、ひと夏ずっと過ごしやすい」

一方の冬場は、カーペットの下に設置した床暖房のみで充分。ついぞ、エアコンのスイッチを入れることもなかったそう。

「床暖房との組み合わせはたまらないですね。やわらかい足元から、あたたかい空気がじんわりにじんでくる」

冬場の心地よさを思い出すように目を細めながら、「でもね」とNさん。

「やっぱりカーペットのいちばんのよさって、機能じゃないんです。もちろん具体的な長所はたくさんあるけれど……感覚的に、『いい』。本物のカーペットとの暮らしを知ってしまったら、もうほかの家には住めないんじゃないかなと思います」

「もっと早く出会いたかった」。そう悔しそうに笑うNさんは、この心地よい部屋で素足のまま読書をたのしんでいる。

テキスト:田中裕子、写真:小野慶輔、編集:今井雄紀(株式会社ツドイ)

※本記事は、堀田カーペットの書籍『CARPET LIFE』に掲載されたインタビュー集「カーペットのある暮らし」から転載しています。書籍の購入はこちらから。

Share