CARPETROOM PROJECT

子どもをポンと寝かせられる家

2024.10.08

 

「おきゃくさんだ!」。クラシカルな装飾がほどこされた、ややレトロなデザインの玄関ドア。がちゃりと開いたその向こう側から、子どもたちのエネルギーいっぱいの声が響いてきた。

築35年、200平米を超える中古の一軒家を購入し、フルリノベーションしたK邸。ご夫婦ふたりと3人のお子さんの5人で暮らしている。もともとはフローリング基調の一軒家だったが、リノベーションする際に敷き込みカーペットを選択した。

「敷き込みとタイルのカーペットを比較したのですが、踏んだときの感触がぜんぜん違うんです。クッション素材の下地のおかげでこんなにふわふわになるんだったら、絶対敷き込みにしようって決めました」

 もともとカーペットは、Kさんご夫婦が信頼する設計士から「立ちっぱなしでも疲れないし、気持ちがいい」とすすめられて興味を持った。一般的にはあまりなじみのない床材だが、じつは妻のさちこさんのご実家がカーペットを敷き込んでいたため、そこまで抵抗はなかったという。

「母も『ウールのカーペットは気持ちええよ』と言っていて、その言葉は後押しになりました。ただ、『水回りだけはやめとき』とも言われていて……それは守らなかったんですが(笑)」

K邸は脱衣所やキッチンなどの水回りから階段、パントリーまで、文字どおり家中にカーペットが敷き込んである。トイレと和室、屋根裏部屋以外、どこを歩いても「ふかふか」がつづく。

隅々までカーペットを敷こうと考えた理由を聞くと、「裸足で歩いたときに冷たい場所があるのは過ごしにくいと思ったんです」。さらにKさんは、いたずらっ子のような笑顔で答えてくれた。

「それに、やるなら徹底的にやったほうがおもしろいでしょう? ひと部屋だけカーペットを敷くとか、水回りは汚れや傷みを避けてフローリングにしちゃうとか、ちょっと『ふつう』だなと思って」

結果的にその冒険は大正解だった、とKさんは語る。

「たとえば階段。子どもはまだバタバタ走り回る年齢なのでさすがに気配を感じますが、大人の足音はまったく響きません。だから1階にいると思っていた妻が2階にいて、腰を抜かしそうになることもしょっちゅうあります(笑)」

「のぼりおりも楽になったよね。わたしはキッチンにも敷いてよかったと思っていて、以前と比べて足が疲れなくなりました。かかとのガサガサも減った気がします」

リノベーションでは壁や建具、造作家具に木をふんだんに使用した。これも全面カーペットだから実現できたデザインだとKさんは語る。

「壁も木材、床もフローリングとなると、やぼったくなってしまいますから。異素材を組み合わせることで、いいバランスの家ができたと思います」

子どもとカーペット

現在0歳、3歳、6歳の3人の子どもがにぎやかに育つK邸だが、「カーペットは子育てとものすごく相性がいい」とKさんご夫婦は声を揃える。

「わたしはなんといっても、赤ちゃんをポンと置いておけるのがいいなと思いますね。帰宅してちょっと荷物をおろしたいとき廊下にポン、料理中も足元にポン。フローリングだとかたいし、いかにも『床』という感じがして抵抗があるけれど、これだけやわらかくて気持ちがいい素材だと座布団の上と変わらないんです」

「子どもって離乳食のはじまりからひたすら食べ汚すものですが、たとえばポタージュをこぼしてもお湯をかけて拭き取ればきれいさっぱり。神経質にならなくても大丈夫です」

「しっかりお漏らししたときも同じように対処したら、シミはもちろん、においも残りませんでした」

「お漏らしが大丈夫なんだから、怖いものなしだよね(笑)。あと、成長して走り回るようになっても、カーペットが音を吸収してくれるからうるさくないんです。子どもたちが階段を全力で駆け上がっても、ドタバタ音が響き渡らない」

「階段といえば、赤ちゃんがいるお客さんが来たときは授乳場所としても使ってもらいました。長く座っていても、お尻が痛くならないので」

布団からはみ出ていても気にならなくなった、安心して鬼ごっこやジャンプもさせられる、ずり這いのとき肘と膝の汚れや擦れが気にならない——。

親の立場から見たカーペットのよさをうれしそうに、たっぷりと語るご夫婦。カーペットの持つやわらかさとあたたかみのある質感、そしてウールカーペットならではの「気楽さ」は、子どものいる家庭にとてもフィットしているよう。

「もちろん子どもだけでなく、大人にとっても居心地がよくて。遊びに来た友人たちも、気づけばみんなソファではなく床に座っているのがおもしろいですね」

6歳の長女も、「あのな、このおうち来てからな、寝っ転がりながら本読むようになってん」とほくほくした顔で教えてくれた。

カーペットで、空間を調和する

K邸のリノベーションでは、一部の内装は35年前につくられたものをそのまま活かして設計した。これはKさんの「古いものをできるだけ活かしたい」という思いを反映しているが、古いものと新しいものが混ざり合ったがゆえの「おもしろさ」が生まれている。そのひとつが、2階の寝室だ。いまやなかなかお目にかかれない彫りがほどこされた天井やバルコニー、造作のおおきな木の収納に、鮮やかな青のカーペットがふしぎと調和している。

「バブル時代っぽいしつらえの部屋だったので、それに負けないような床にしようと考えたんです。それで、ふつうは選ばないようなインパクトの強い青をあててみたら、想像以上にハマってくれて」

たとえば無彩色のカーペットやフローリングなど印象の薄い床だと、華美なしつらえの印象が「勝って」しまったかもしれない。それがカーペットの個性ある色とかけ合わせることで、全体として絶妙なバランスが成立した。築年数の経っている家だからこその、唯一無二の空間となっている。

さらに、1階や廊下などほかの場所とカーペットの色をがらりと変えることで、同じ素材とは思えない雰囲気を醸し出しているのもおもしろい。

「廊下やリビングに使用している基本の色味は設計士さんに委ねましたが、子ども部屋は自分たちでベージュを選びました。上の女の子はピンクなどの暖色が好きなので、今後、家具や雑貨と合わせたときに重たくなってしまうんじゃないかなと。ベージュなら、何色を好きになっても合わせやすいですしね」思い描く空間をつくるために、カーペットをうまく活用したK邸。「やるならおもしろいほうがいい」というKさんご夫婦の個性が、カーペットライフをより楽しく、自由なものにしている。

部屋のテイストを決めたり、バランスを取ったり、冒険したり。インテリアとしても暮らしを豊かにしてくれるのは、カーペットの魅力だろう。

テキスト:田中裕子、写真:小野慶輔、編集:今井雄紀(株式会社ツドイ)

※本記事は、堀田カーペットの書籍『CARPET LIFE』に掲載されたインタビュー集「カーペットのある暮らし」から転載しています。書籍の購入はこちらから。

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